ブルックリンのチェリストとの話

ladderlottery#3

2015年6月、Brooklynのアパートにairbnbで1週間ほど泊まっていたとき、地下室にあるランドリーで乾燥機を待ってる間に隣の男に話しかけられた。

見るからに不健康そうな彼は、体もガリガリで細ければ髪の毛も長くて細い。顔はコケてる。たしかミシガン出身だと言っていた気がする。ミシガンについては特に何も知らないけど、なんとなくそれっぽい気もした。名前は最後まで特に聞かなかった。
ちょっと不気味な感じもしたが、特に害意はなさそうだったのでしばらく話してた。音楽一家の生まれだそうで、彼はチェリストらしい。話をしている間に、自分はダンスをやっているという話をした。案の定動画を見たいというから見せたら、「ほ〜いいね。」くらいのテンションで感想が返ってきた。その反応はわりと嬉しかった。

そして聞かれた。「Do you make money for that?」と。僕は「そうか、そういうもんか。」と妙に考え込んでしまった。

そのアパートはMorgan Ave.とLorimer St.の間にあって、僕はよくMorgan Ave.からLラインに乗った。ManhattanからLラインで帰りながらBrooklyn Funk EssentialsのTake the L Train (To Brooklyn)を聴いたのをよく覚えている。

そのアパートでの滞在は、結構濃かった。夕方には屋上から日が沈んでいくBrooklynの街が見えた。地下室は、ランドリー、ワークアウトスペース、ビリヤード台、音楽スタジオ、ダンススタジオ、カウチのチルスペースといった充実具合。カウチスペースは、夜になるといつもウィードの匂いが充満してた。住んでいる人たちはアーティストばかりだそうで、僕が泊まってた部屋のオーナーも絵とかイラストを描くアーティストだった。

そのチェリストの彼もそういうアパートの住人のひとりで、たぶん金はあまりない。彼の仕事はチェロを弾くことで、それで生計を立てていた。でも、僕も当時はその彼がチェロを弾いているのと同じくらいかそれ以上の時間とエネルギーをダンスに注いでいた。たぶん彼は僕のダンスの動画を見て、こいつはある程度真剣に踊っているんだろうと思ってくれたんだと思う。そう感じたから、僕はそう聞かれたときに嬉しく感じた。そして、同時になんか情けなくなってきた。

「自分はあくまで学生だ」っていう意識がきっと心のどこかにはあって、自分のダンスを誰からかお金が払われるものとして捉えたことはなかった。(もちろん、サークル公演のときとかは入場料をもらってる以上そういう意識もあった。けど良くも悪くも、あれはダンス公演であって、お金を払われる対象は純粋な個々のダンスだけではないと思う。)
なんなら、バトルも、コンテストも、ショーケースも、踊るためにいつもお金を払っていた。その自分のダンスが、お金を貰い得るものだとは考えたこともなかった。ダンスに全力注いでるはずだったのに、だ。

それが実感として変わった転機は、やはり夏コンだった。
2015年9月にMooという3人組のチームで、関東の学生ダンスコンテストで優勝できた。このコンテストは一応、関東の全学生が対象ってことになってるので、めでたく僕たちは関東1位のチームになった訳だ。

社会はやっぱり結構単純で、このコンテストで優勝したおかげで様々なオファーを貰えるようになった。ショーケース出演やナンバーの振り付け、NIKEスタジオでのワークショップとかもやった。初めて、自分のダンスがお金になるという体験をした。

この出来事は、自分にとって衝撃的だった。自分が独立した個人として持っている技術に対して、お金が払われる。こんなに嬉しいことはないと思った。
同時に、自分の未熟さは今まで以上に感じて、もっともっと頑張らなきゃって思った。そう思えている感じも、僕はすごく好きだった。自分に対して自分が責任をきちんと負っている感じだ。僕はこの感じを高校の時にお世話になった人の言葉を借りて「オーナーシップを持つ」と言う。僕にとっては、このオーナーシップを持てるかどうかが行動を決める上で何より大事な指針かもしれない。

村上春樹は最初に適当に書いた(と本人は言っている)小説で新人賞を受賞した。その新人賞のことを村上春樹は「入場券」と呼んでいた。それはまあマグレで掴むものだが、少なくともプロとしてフィールドに立つ資格にはなり、そこから本当の勝負が始まる(始められる)ということだ。先のコンテスト優勝が、僕にとっては「入場券」だった。その「入場券」のおかげで、僕は仕事に対して自分が求めることを何となく掴んだ気がした。

アーティストはわかりやすい。
自分の作った作品に対して対価が支払われる。ダンサーだって、その最たるもののひとつだ。身ひとつでステージ(要は仕事場)に出て、音楽に合わせて踊る。何も形としては後に残らないが、お客さんはそこで見たものに対してお金を払う訳だ。
それは人としてすごい強さだと僕は思うし、その強さはかなり美しいと思う。(だから、ダンスにハマった訳だけど。)

でも、それはアーティストに限った話じゃないと思う。仕事って、たぶん元来そういうものだ。ただ社会が大きくなって少しずつ分かりづらくなっているだけで、全ての仕事はもともと本質的にそうだったはずだ。

また改めてブログに書く予定だが、僕はいまweb制作の仕事をしている。いまはこれで生計を立てている。これに生活のほぼ全ての時間をかけている。これもまた、自分の技術力がハッキリと成果として現れる。オーナーシップを持てなくなったら終わりだと思っている。

誰かに会って僕は言う。
「最近はこれをやってるんだ」
誰かはこう聞いてくる。
「Do you make money for that?」
「うん、そうだよ。」
僕はいつでもそう答えられる状態でいたい。
(挿絵:カメイサチコ

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