一発芸をしろと言われたら

僕は大学時代にいたどのコミュニティにおいても一発芸をするようなキャラではなかった。そんな僕が大学中にちゃんと一発芸をしたのは、覚えている限りで3回。1回はサークルの新入生が全員やらなくてはいけない合宿の一発芸大会、もう1回は身内バトルで負けた罰ゲーム、そして最後はダンスのイベントの打ち上げで逃げきれなかったときだ。

「そういうキャラじゃない」ので、一発芸をするのは基本的に絶対避けたいことだった。多くの場合は場の空気は守りつつも全力で逃げてきた。ただ、どんなに「一発芸とかやらないキャラ」を保っていても、避けられないときもある。そういうときは覚悟を決めて唯一の持ちネタを全力でやる訳だが、たまにそんな窮地から救い出してくれる人がいる。そんなときは心の底から感謝が湧き出てくる。僕が感動した話をひとつ紹介したい。

 

僕がまだ大学1年生だった頃。先輩に連れられて8人ほどで焼肉屋に行った。混んでいたので少し離れた2テーブルに分かれて座った。しばらくすると、もう片方のテーブルからひとり歩いてきて、唐突に僕たちに向かって一発芸をして帰っていったのだ。向こうのテーブルから代表として送られてきたそいつに対して、当然僕たちも誰かがやり返しに行かなきゃいけない状況になってしまった。
そのときのテーブルのメンツは、ひとつ上の男の先輩がひとり、同期の女の子がふたり、そして僕の4人だった。かつ、男の先輩はイケメンで、おおよそ体を張って一発芸をするようなタイプには見えなかった。僕は静かに悟った。ここで行かなきゃいけないのは、自分だ。大学に入ったばかりでサークルは上下関係が厳しいものと勝手に思い込んでいたので、こういう仕事は最年少の男である僕がやるべきことだと考えたからだ。そこで腹を括ってネタを考えようとしていたら、男の先輩が急に言い出した。

「いや〜困ったな。誰が行く??でも、弘太郎はそういうキャラじゃないからなあ。よし、しょーがないな。おれが行ってくるわ!」

え??そういうキャラじゃなかったらやらなくていいの??「やらずに済んで良かった〜」とかでなく、そんな優しい理解を示して、代わりに自分が体張ってくれる人がいるものなのかと心底ビックリした。そのとき、僕はその先輩を心底好きだと思ったし、なんて強い人なんだと思った。

 

なんで一発芸をやりたくなかったのか。僕がそのとき嫌がってた理由は、そういうキャラじゃなかったからだ。当時の僕にとっては、そのキャラを保つことがきっと大事だったんだろう。じゃあ、その先輩の場合はどうだろう。先輩も決して自ら一発芸をやりたがるタイプではなかった。でも、そのときは僕のキャラ(であったり、メンツであったり。どっちにしろ大したことのないもの。)を保つため、先輩なのに自分から進んで代わりにやりにいってくれた。その先輩にとっては、場(僕の感情含め)を壊さないためであったら、自分のプライドなり体裁は取るに足らないものだったんだろう。天秤に掛けるまでもなく、そこでの成果(=場を壊さないこと)のために自分のキャラを簡単に捨てたのだ。

一発芸は極端な例だが、そういう立場になったときに自分はそういう選択ができるか。成果のために、自分のキャラを捨て去ることができるか。

 

まあ話は戻るが、どんなキャラであれ、みんな一発芸はひとつでいいから持っておいた方が良いと僕は心から思う。僕の場合はしょぼいネタがひとつしかないが、そのネタでいくつかの窮地は乗り切った。あれがなかったらと思うと今でもゾッとする。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA